2014年6月25日水曜日

アメリカ理系大学院(PhD)への入学方法

筆者は2011年にアメリカの某大学のElectrical and Computer Engineeringの博士課程に入学した。具体的な出願プロセスや必要書類についてはいろいろと書籍もありウェブ上にもいろいろと情報があるのでここでは筆者が経験した中から重要だと思うポイントについて箇条書きしたい。質問があればコメント欄にお願いします。

【注意事項】
・筆者の主観で述べている部分が多々あります。
・自分がやりたい分野が決まっている人向けの情報です。
Computer SicenceおよびElectrical and Computer Engineeringの一部分野(ソフトウェア系)の固有の話が多いです。

【指導教授の選び方】
自分がやりたい分野が完全に決まっている場合のほうが楽だと思う。筆者の場合もそうだった。自分がやったことは、大学ランキング30位くらいまでの大学の中から自分の研究分野の教授をリストアップしてエクセルに入力。各教授の具体的な研究テーマもリストアップ。各教授の特徴、年を取っているかや学生数などを記入。ここらへんは教授のウェブサイトを見ることでわかる。また論文を読むのも重要。リストアップ後は様々な観点から絞込みをして自分の場合は10人くらいに絞った。その分、ひとりひとりへのエッセイやメールには時間をかけた。エッセイにはその教授とラボに入りたい旨と、どういった研究をしたいのかを具体的に書いた。その場合も受身口調ではなく、研究テーマの提案に近い形で書いた。そのためにはその教授の論文を読み込む必要があるので結構時間がかかる。あと、あまり最近論文を発表していない教授やあまりにも年を取っている教授はやめたほうがいいと思う。あとは学生数もチェックすべき。あまりに少ない場合は引退間近やお金がない教授の可能性がある。

【コンタクトの仕方】
まず、多くの教授がウェブサイト上で出願者に対して、メールを送るなと明記してあった。そうしないと彼らのメールは出願者からのアピールメールでいっぱいになってしまうのだろう。メールを送るなと書いてある場合は素直に送らないでおいたほうがいいかもしれない。その場合は通常の大学の出願手続きに従うが、エッセイの中でその教授の指導を受けたい旨を明記する。メールを送るなと書いていない教授の場合は遠慮なくメールすべき。その際のメールはもしかしたら出願時のエッセイよりも重要かもしれないので推敲に推敲を重ねるべき。できればネイティブチェックも受けたほうが良いと思う。自分が書いた内容は、挨拶→自己紹介→自分がやってきた研究について→その教授が興味を持ちそうな研究テーマを提案、自分のウェブサイトへのリンクおよびCV(下記参照)である。最後の部分は当然教授によって変える。自分は何通もメールを送って4人くらいから前向きな返事をもらい、最終的にそのうち2人からオファーをもらった。メールを送っていなければ受からなかったと思う。

【ウェブサイト】
必ず自分の研究者としてのウェブサイトを作成しておき、研究業績や履歴などを載せておく。そして教授へのメール時には必ずリンクを含める。コンピュータサイエンス系の学生がこうした個人サイトを持つことはもはや常識である。通常ラボのウェブサイトに学生のリストがあり、そこから学生個人のウェブサイトにいけるようになっているのでそれらを参考に作成すると良いと思う。

【CV】
日本語で言う履歴書である。LaTexで気に入ったデザインのCVのテンプレートを見つけ、学歴、職歴、スキル、研究業績などを書いていく。注意事項としてはCVは2ページにすること。入学後にインターンやフルタイムのポジションを探すときにもCVは必須なので、キャリアを通して、適宜アップデートしていくことになる。教授にメールする際はCVを添付する。

【学歴・推薦状・研究業績】
なんだかんだいってUniversity of TokyoやKyoto Universityはアメリカでも知られているので、そういった有名大学に在籍もしくは卒業していて、世界的に有名な教授から良い推薦状もらい、さらに既にいくつか研究業績があり、他の面で大きく失点しなければ(GPAやTOEFLの点があまりに低い)複数の学校からオファーをもらえる確率はかなり高いと思う。ただ、その場合もコンピュータサイエンスのトップスクール(MIT,CMU,Stanford,UC Berkeleyの4校)から合格をもらうのは簡単ではないと思う。なぜかというと中国・インドをはじめとする国々のトップ大学卒を優秀な成績で卒業した出願者の中から選んでもらうためにはさらにプラスアルファが必要だから。ここで一番ものを言うのはやはり研究業績である。それもただ単に論文を出しました、ではなくその分野のトップカンファレンス、トップジャーナルにファーストオーサーとして何本か出していれば最高である。はっきり言ってそれさえあれば有名大学卒じゃなくてもGPAが低くても、有名な先生から推薦状がもらえなくてもトップスクールに合格する可能性はかなり高いと思う。トップカンファレンスとはいかなくても少なくともそれなりのカンファレンスに数本出しているのもかなり効果がある。もちろん日本語の論文はいくら出していても全く考慮されないので、論文を書く機会がある場合はある程度知られた国際会議なりジャーナルを目標にしないと時間の無駄になる。研究業績が無い場合は、例えば数学オリンピックで金賞だったとか卒業生のうち成績が10位だったとかプログラミングコンテストで優勝したとかいう経験があればかなり良いだろう。個人的にはコンピュータサイエンスでの日本人の存在感があまりに低いのでもっと日本人が増えて欲しいなと思う。ただ上記4校以外にも良い教授はたくさんいるし、最終的には在学中の研究業績がものをいうので上記4校にそこまでこだわる必要もないかなと思う。(自分は上記4つのなかではCMUにしか出願していない。)

【外部奨学金】
一番合格の可能性が高くなるのはやはり外部の奨学金を得て留学することだろう。教授としては給料を払わずに人手が手に入るのだから足手まといにならなければこんなにありがたいことはない。ただし、奨学金によっては卒業後何年は日本で働かなくてはいけない決まりだったり、期限が短かったりする場合があるので注意が必要。また、ほとんどの留学生は外部奨学金なしで来ているので同じ土俵で勝負したい場合は奨学金に頼らないという選択もあり。

アメリカ理系大学院博士課程の様子

筆者は2011年の秋からアメリカの某大学のDepartment of Electrical and Computer Engineering (電気・コンピュータ工学?)のPhD(いわゆる博士)課程に在籍してます。研究分野はコンピュータービジョン・機械学習といったコンピューターサイエンスよりの分野です。アメリカの理系大学院の様子をいろいろな観点から述べます。 アメリカへの研究留学に興味がある方の参考に少しでもなればと思います。

【注意事項】
 ・内容は筆者の経験・感覚や友人から聞いた話に基づいています。
・筆者はアメリカのECEまたはCS(コンピューターサイエンス)の大学院の様子しか実体験を持っていませんのでそれ以外の学科や国の状況はわかりません。 

【人種構成】 正式な数字は知らないが自分の感覚では次のとおり。中国人50%、インド人20%、アメリカ人5%、韓国人5%、台湾人5%、その他いろんな国から。ちなみに日本人は筆者ひとりである。コンピューターサイエンスはアメリカ人がもう少し多いような気がするがだいたい一緒である。この前ラボのアメリカ人が「おれたちマイノリティーだよね」と自虐的に話していた。ちなみにCSには日本人は2人いる。他の学科では理学・工学も含めてここまで外国人比率が高いところは聞いたことがない。例えば数学科や航空宇宙工学科などはアメリカ人がかなり多く、インド人はほとんどいない。中国人はそこそこいるようだ。インド人から聞いた話によるとインドではECEとCSが一番人気らしい。理由はそれ以外の分野は工学も含めて産業が発達していないのでインドでの就職先が少ないそう。あとこれはインド人に限らない話だが、ECEおよびCSの卒業生の就職先がアメリカではたくさんあるのでアメリカに移住したい場合、ECEおよびCSが有利だと思う。これが純粋数学とかになると就職先はアカデミアに限られてくるので大変だろう。よく他の留学生に聞かれるのは、日本には良い大学があって産業が発達していて良い会社がたくさんあるのになんでおまえはアメリカに来たんだ?ということである。話をきくとどうもインドや中国は学部のレベルは高いが、大学院のレベル(つまり研究のレベル)がそんなに高くないらしく、研究するには良い環境ではないらしい。また、本国で優秀な学生はアメリカの大学院に留学するというのがメジャーなことになっていて学歴の最終到達地点のような感覚らしい。ここは日本と違うところで日本ではやはり優秀だろうがなかろうが学部→修士→日本で就職というのが大多数の理系学生の進路であって海外の大学でPhDを取ろうという人間はまだ少数派だろう。自分もいろいろな偶然が重なっていなければそもそもアメリカでPhDを取ろうという気にもならなかったと思う。しかし、国内に残って不自由なく暮らせるというのは実はとてもありがたいことなのかもしれない。 

【学生の様子】 学生はみんなとても優秀である。特に留学生は各国のトップクラスの大学で上位の成績を修めたようなひとばかりである。ラボのあるインド人はインド全体の大学入試のテストで100番くらいだったらしい。また友好的な人が多くまじめで礼儀正しい人が多い。当然といえば当然だが、国ごとに固まっている感は否めない。やはりインド人はインド人と一緒にルームシェアし遊びに行ったりし、中国人は中国人と、アメリカ人はアメリカ人と一緒にいる。自分はひとりなのでみんなと仲良くでき逆に幸運かもしれない。またいろいろな国の人と交流できるのが非常に楽しい。年齢は20代中ごろから来て30になる前に卒業する人が多い。ちなみに自分は30になってから来たので周りはほとんど年下。ただ、同い年くらいの学生もちらほらいるので疎外感はない。まあ20代後半ともなればみんな大人なので多少の年の差は気にならない。(少なくとも自分は気にしていない)また、自分も含めて既婚者もちらほらいる。傾向としては中国人はわりと学部卒業して直で来る人が多い。インド人は社会人経験がある人も結構いる。台湾人・韓国人は社会人経験がある人が結構いて、かつ兵役が2年くらいあるので年齢は高め。

【人数】 ECEの大学院生はおそらく全部で250人くらい。平均5年在籍するとして一学年50人くらい。ただし、ECE自体はとても大きな研究領域で物理的なことをやっている人もいればロボット的なことをやっている人もいれば情報理論などの数学的な分野をやっている人もいるので、各分野で一学年に15人くらいだろうか。筆者自身は正式には専攻はSignal Processingであるが研究内容はほぼコンピュータサイエンス(コンピュータービジョンおよびマシンラーニング)である。

【授業】 授業は日本の大学(自分の卒業した大学)とは比べものにならないほどハードである。まずスピードが速い。そして宿題が多い。さらにプロジェクトやらテストやらがたくさんある。自分は最初の学期によくわからないまま授業を3コース+セミナーを1つ取ってしまい、さらにTAもやっていたので本当に大変だった。この一学期だけで日本の大学での4年間より多く勉強したのは(恥ずかしながら)間違いない。ただ、2学期以降は授業は2コースまでと決めたので1学期目よりは楽になった。あとは慣れもあるだろう。あと、最初はコアコースと呼ばれるハードなコースを取らなければいけない決まりだったが、その後は、セミナー的な授業が増えたりプロジェクトベースの授業が増えたりでだんだん楽になった。成績はGPA3.0以上をキープしないと退学させられる。(猶予期間有り。)授業中生徒がよく質問をし、教授も常に質問がないか聞いてくるのが日本と大きく違うところである。授業時間は1コースで週二回75分の授業が基本である。過去問を集めるのが重要というのは日本と一緒である。(自分は後で気づいた。)授業の成績は主に、宿題、テスト、プロジェクトの点の合計で決まる。宿題10%、中間テスト30%、期末テスト40%、プロジェクト20%のように割合がはじめから公表されている。各学期ごとに自分がとったコースの評価、つまり教授の採点を行う。これは匿名で行われ、評価を入力したものだけが他のコースの評価などの最終結果を見ることができる。あまり適当な授業をやると生徒から悪い評価をつけられ自身の昇進や評価に影響する、という仕組みよって授業の質を保っているのだと思われる。 

【TA】 基本的にほとんどのPhD課程の学生がTAを最低1学期やる。自分は最初の1学期および4年目になってから自分の教授の授業のTA(正確にはTeaching Fellow)をやった。仕事は週一回、1時間のDiscussion Sessionと呼ばれる演習の授業を受け持つことと、日々の宿題およびプロジェクト・テストの採点である。基本的には学部生用の授業を受け持つが大学院生向けの授業を受け持つこともある。この場合、テストの採点だけは教授が行う決まりに一応なっている。TAは大変だが自分の勉強にもなるし、英語の練習にもなるので非常に役に立つと思う。また、TAとして大学から給料がもらえ、さらに学費免除になるので実はとてもありがたい仕事である。自分の研究室は外国人だらけなのでこのTAの時間を通して学部のアメリカ人と交流できるのもなかなか貴重な時間だった。ただ、アメリカ人の学部生は非常に自己主張が強いのでこちらもハッキリものを言ったほうが良いと思う。 

【RA】 TAをやらない学期はRAとして指導教授に研究員として雇われている形になる。給料は独身なら質素にすれば暮らしていけるレベルのものがもらえる。また学費も免除となる。仕事としては単に研究をし、論文を書くだけで、それによってPhDをもらうことになるのでこれまた本当にありがたい仕事である。ただし、研究資金に乏しい指導教授の場合、RAとして雇ってもらえずずっとTAをやり続けなければならない(自分の研究の時間が奪われる)場合や、研究室にいられなくなり他の指導教授を探さなければならなくなったり、最悪は大学を去らなければならなくなる。なのであらかじめ教授の金銭状態を把握しておくことも何気に重要だと思う。自分の指導教授は幸いなことに研究資金を豊富にもっているのでありがたいことに今のところはRAとして研究に集中できている。 

【PhD適格試験】 各授業の試験とは別に、PhD課程の学生として大学に残るための試験がある。大学・専攻によって内容は異なるが、自分の大学のECEの場合は、筆記試験、口答試験、プロポーザル、ディフェンスと呼ばれる4つの試験がある。このうちプロポーザルとディフェンスは基本的には自分の研究を教授の前で発表するだけであり、落ちたという人は今まで聞いたことがない。ちなみにプロポーザルは3年目から4年目頃にやる人が多く、ディフェンスは卒業直前にやる。筆記試験は1年目の間に受かる必要があり、2回までチャンスが与えられる。内容は、10個のECEの分野のうちから5つを選んで行う試験である。ほとんどの学生が合格する。一番の難関は口頭試験である。これは2年目のうちに受かる必要があり、筆記試験と同様2回までチャンスが与えられる。内容は、コアコースに指定されている授業を2つ選び、指定された教授3人による口頭による試験である。自分の場合は1時間半程度であった。回答は基本的に黒板を使って行う。この口答試験は実際に落ちた人を何人も知っている。なのでこの口答試験はかなりのプレッシャーであった。ちなみに自分の大学のCSは学科長の方針でプロポーザルとディフェンスのみらしい。 

【研究】 これはもう本当に教授による。教授によってはコアタイムがあったりするらしい。傾向としてはテニュアを持たない教授は自分も必死なので学生に細かく指示を出し一緒になって研究する。テニュアを持っている教授は割と放任である。自分の指導教授は完全に後者。どちらもメリット・デメリットがあるが、あまり教授が細かく指示してくる場合は自分で新しいアイデアを考えたりする機会が少ないのかなと思う。ただ、過去にその分野での研究経験がない場合は丁寧に指導してくれる教授のほうがいいかもしれない。後者の場合は既にその分野での研究経験があり、自分ひとりでもなんとかやっていける場合はいいかもしれない。その分、うまくいかなかった場合のリスクも自分で背負うことになる。また、仕事を指示してくれるひとがいないので研究が好きでないと自分でモチベーションを保つのが大変だろう。 

【ラボの様子】 学生は全部で20人くらいおり、みな別々の研究テーマを持っており、割と独自に研究をしている。ただこれは分野によるだろう。大掛かりな実験が伴うような分野では複数人が協力してひとつのテーマを研究するのが当たり前かもしれない。筆者の分野は紙とペンとコンピュータがあれば研究できる分野なのでひとりひとりが個別に研究テーマを持っている。なお、20人というのはかなりの大所帯である。人数が多いと教授がひとりに割ける時間が減るのがデメリットかもしれないが同じ分野の仲間が多いといろいろと議論ができたり気軽に聞けたりするのでその点はメリットであろう。

【インターン】
口頭試験をパスし、授業も全て取り終えた3年目以降から、特に卒業後はインダストリーに就職しようと考えている学生は、企業でのインターンを経験する人が多い。だいたいは夏の間の三カ月であるが、場合によっては1年間やったりもする。インターン先はGoogle、Microsoft Research、Facebook、AdobeなどのIT企業が多い。日系企業の研究所(NEC Lab America、MERL、Honda Research Institute、TTI)なども割と人気である。別の投稿で詳しく書いたが、だいたい一月で6000から11000ドルもらえる。また、インターンとして良い成果をだせばそこで卒業後にフルタイムとして雇ってもらえる可能性も高くなる。