2014年9月24日水曜日

アメリカのソフトウェアエンジニアの待遇

アメリカのソフトウェアエンジニアの待遇について書こうと思う。

【注意】まず、一口にアメリカと言っても幅が大きいのでここではシリコンバレーに限定する。また、スタートアップなどの待遇についてはよくわからないので、ある程度名の知れた企業および世界的大企業を対象にする。また、内容はあくまで筆者が経験したこと、および他人から聞いた範囲の話なのでうわさ話程度に思っていただきたい。

【有用なサイト】まず、アメリカのIT企業の給料を具体的に知りたい方にはこのサイトをお勧めする。Glassdoor このサイトは各種企業の給料をポジション別に、現在および過去の従業員が自分がもらっていた給料を匿名で公開しているサイトだ。もちろん匿名なのでなかにはうその情報もあるかもしれないが、一応信頼できるサイトとして知られている。このサイトにはIT企業だけではなく、そのほかの業種の企業、例えば金融やコンサルなどの企業の給料も登録されている。具体的に見てみよう。例えばGoogleのSoftware Engineerの給料は4500人ほどから投稿があり、平均は$118,940となっている。ただし、この金額はボーナスは含まれておらずボーナス込みの平均は$146,417となっている。また、給料の幅は$78,000からなんと$555,000となっている。ボーナス込みの下限とボーナスなしでの下限が同じになっているのでおそらくボーナスを空欄にして投稿した人がいるのだろう。ちなみにこれらの給料は税引き前である。FacebookのSoftware Engineerの平均はボーナス込みで$171,884である。ただし、これは平均なので中間値はもっと低いと思われる。

【初任給】また、これらの大企業に大学卒後にエンジニアとして入社した場合の平均年収は$100,000くらいと言われている。修士卒の場合はそれより当然高くなり、PhDの場合はさらに高くなり初任給で$150,000もめずらしくない。もちろんその後の伸びや出世は入社後の評価によって決まる。

【転職】転職に関しては、みな頻繁に行う。むしろ転職を使って自身の給料アップを勝ち取るのが普通だ。また、実際に転職しなくても、他の企業からの引き抜きのオファーがあったことを会社に伝えて会社間で競わせたりも一般的だ。中には、2~3年で転職を繰り返し、名の知れた大企業は一通り在籍したというようなひとも珍しくない。古い日本の企業のように入社後は定年まで働くことが期待され、社内のいろいろな部署を経験しながら出世を目指すというようなスタイルは存在しない。あくまで仕事は会社との契約であり、仕事を行う対価として給料をもらい、他にもっと良いオファーがあれば迷わず転職するという意識がある。その代わり、クビになるのも一瞬である。会社の業績が悪い場合のレイオフは日常茶飯事だし、部署の業績が悪ければ一握りのキーマンを残して部署ごとクビなどは良く聞く話しだ。なのでスキルアップは非常に重要で、みな一生懸命働き、ネットワーキングを大事にする。

【ボーナスおよび福利厚生】話をもとに戻す。ボーナスに関してはキャッシュおよびストック(Restricted Stock Unit)の組み合わせが多いようだ。また、大企業であれば健康保険や401kのマッチング、社員割引などの福利厚生もしっかりしており、社内に無料のジムがあったりバスケットコートがあったりする。また社内研修も充実しており様々な技術の講習会などがあったりする。有名な話ではあるが、Googleは無料のカフェを社内に持っており、フレンチや生牡蠣などの高級料理も全て無料らしい。最近は、無料のカフェを提供する会社が増えてきたように思う。

【インターンの待遇】以上はフルタイムの話であるが、これらIT企業でのインターンの待遇もすばらしい。学部生のエンジニアリングのインターンであれば月$6,000は普通である。MasterやPhDの学生であればそれよりもさらに上で、月$9,000+家賃が月$2000するようなアパート付きというような待遇もめずらしくない。また、インターン中の評価が良ければフルタイムの仕事のオファーを出すのが一般的で、行きたい企業でインターンをすることが入社への近道となっている。なぜ、インターンにこのような高待遇を与えるのかというと、シリコンバレーでは優秀なエンジニアの獲得競争が激からだ。つまり、現時点では売り手市場であり、トップスクールを高いGPAで卒業し、在学中にプログラミングコンテストで優勝したような学生であれば複数の大企業からオファーをもらい、給与の額を競わせるようなこともあるようだ。インターンを高待遇で迎え入れ楽しいイベントなどでもてなして、自社の良さをアピールして優秀な人材には卒業後に入社してもらうといういわば囲い込み戦略である。これらの事例はシリコンバレーのIT企業がいかに人材を重要視しているかを示している。もちろんいくら売り手市場とはいえ、簡単にインターンとして雇ってもらえるわけではなく、複数の面接や書類審査を通過したものだけがオファーをもらえることになる。また、同じ企業で同じポジションのインターンであっても給料の額が違ったりする。

【エンジニアが主役】シリコンバレーではエンジニアが主役である。そのためエンジニアはみな自分がエンジニアであることを誇りに思っており、実際に一目置かれ、高待遇で迎えられる。そういう意味ではシリコンバレーはエンジニアにとっては思いっきり仕事に没頭できリターンも得られるという非常に良い環境と思う。

【デメリット】
良いことばかりかくと胡散臭くなるので悪い点も少し書いておく。上で書いたように、大企業であってもレイオフが簡単に行われるのと、企業の栄枯盛衰が激しいので、安定という面ではよろしくない。また、技術の流行り廃りがあるので、自分の持っているスキルが時代遅れにならないようにしないといけない。そのためには、自分で勉強するとか、スキルが身につくような環境を求めて自ら転職などの行動をおこしていかないといけない。

【最後に】シリコンバレーでは、ソフトウェアエンジニアだけでなく、ロボット系、機械系のエンジニアやデータサイエンティストの募集も同じような高待遇で募集があるので日本人のエンジニアで高収入でやりがいがある仕事がしたい方にはぜひシリコンバレーに来ることをお勧めしたい。採用プロセスなどに関しては別の機会に書きたいと思う。





2014年9月23日火曜日

アメリカで新車を購入またはリースする

今回、3年間乗った中古の2003年式のTOYOTAのRAV4がいろいろと問題が発生してきたため(3ヶ月放置したらノイズが発生するようになった)、RAV4を売って新車のカローラを2年のリース契約した。アメリカのディーラーについてはいろいろと悪いうわさ(押しが強い、ふっかけてくる等)を聞いていたため、高く売りつけられないためにいろいろと事前学習をして購入に臨んだ。その結果、自分的には満足できる契約をすることができた。次回自分が車を購入する際の備考録として、また、これからアメリカで新車を購入またはリースしようという方の参考資料として、今回の経験を記録にまとめる。なお、リース、購入に関わらず共通の事項に関しては、「購入」という表記にする。自分はローンは今回想定していなかったのでローンについては触れない。

【買う車の選定】
まだ買いたい車が決まっていない場合は、ディーラーに行っていろいろ試乗させてもらえばよい。ただし、絶対にその日に契約しないこと。ディーラーは必ずその日中に契約させようとしてくるのできっぱりと断ること。いろいろ言ってきても無視して席を立つことが大事。こっちが客なので遠慮する必要は全くない。気に入らない車の場合は「I don't like it.」とハッキリ伝えること。最後は笑顔で「Thank you. I will think about it at home.」とでもいってそのまま帰ればOK。


【手持ちの車を売って新車を購入する場合】
まず、KBBというサイトで自分の車の現在の価値を調べておく。自分のRAV4は6900ドルくらいであった。そして、CARMAXに行って、見積もりをしてもらう。だいたい30分くらいで1週間有効の見積書をくれる。CARMAXは交渉を受け付けないポリシーで有名なので、CARMAXでは特に交渉はしなかった。結果、自分のRAV4は6000ドルという査定だった。CARMAXの査定はディーラーの査定より高くなることが多く、その場合、ディーラーにCARMAXからの見積書を見せれば同じ価格で買い取ってもらえる。また、売ったディーラーにおいて車を買うことにより、税金が節約できる。具体的には、買う車の価格-売る車の価格にしか税金が掛からなくてすむ。最も高く車を売る方法はcraigslistなどを使った個人売買らしいが、時間も手間もかかるので今回はそこまではしないことにした。

【事前準備】
買う予定の車の適正購入価格を、TruceCar、KBB、Edmundsといったサイトであらかじめ調べておき、一番安い価格を提示したサイトのページを印刷しておく。車の価格はMSRPという名前で表示されていて、商談の際はこれをいくらまで下げられるかを目標にする。サイトで調べた適正価格以上では絶対に買わないこと。通常MSRPにはFreight charge ( もしくは Delivery charge ) が含まれているが、必ず商談の際の値段交渉の前に、ディーラーが言うMSRVにFreight chargeが含まれていることを最初に確認する。

【ディーラーに行く】
まずは目当ての車を見せてもらい、試乗などをさせてもらう。アメリカの場合は、ディーラーの在庫から選んで、それをそのまま購入する形になるので、試乗する車が購入する車になる。なので不具合がないかを念のため試乗で確認する。買う車を決めたら、席についていよいよ商談に入る。いろいろと書類に記入するように言ってくるが、全て断り、「Let's talk about the price first.」とでも言う。相手のペースで話をすすめないことが重要。
商談の流れは以下のとおり。まず、MSRP以外にかかる費用について聞く。通常は、TAX、TAGS、Document Processing Fee($300程度)がかかる。TAXとTAGSは法定費用である。Document Processing Feeもディーラーによって決まっているのでここは交渉の余地はない。その他の費用もあるといわれた場合は必ず説明を求める。納得いかない費用がある場合は、うやむやにしないで、この時点で席を立って家に帰って調べること。遠慮は全く要らない。
その後、MSRPをいくらにできるかの交渉を始める。(ここで決める価格をCap Costという。)必ず向こうはいくらなら買えるのかを聞いてくるので、あらかじめ調べた適正価格の$1000下くらいの金額を言ってみる。するとそれは無理だと言ってくるのでじゃあいくらなら売るのかと聞く。その際、自分は他のディーラーからも見積もりを持っているし(実際には持っていない)、いくつかのサイトで適正価格も調べてあると言う。するとそれを見せろと言って来るので、それは見せられないと拒否し、そちらが可能な限りの最低価格を提示しろと言う。もし提示した価格が他のところの価格より高ければもう商談は終わりだとはっきり伝える。これまでのやりとりはどちらかというとディーラーに「こいつは手ごわいな」と思わせるための戦略である。ディーラーが根負けしたら実際に価格を提示してくる。もし、頑固なディーラーで価格を提示してこないようなら、あらかじめ調べたサイトのプリントを渡し、Can you beat it? と聞きながら渡す。ディーラーはおそらくマネージャーのところに相談に行き、その後、価格を提示してくる。ディーラーが提示してきた価格がサイトの価格より高い場合は、迷わず席を立つこと。これがとても重要。たいていの場合、ディーラーは「ちょっと待て。もっと良い価格を出すから」といってまたマネージャーのところに行き、今度はサイトの価格を下回る価格を提示してくるであろう。
その後、さらに頑張ってもいいかもしれないが、私は個の時点でCap Costについては合意した。今回の場合は、MSRPが$20,670に対して、Cap Costは$18,000にすることができた。(もちろんFreight Charge込みであることを確認)購入の場合はこの時点で商談終了であるが、リースの場合はさらに重要な交渉が待っている。なお、交渉の際は、必ず紙とペンを用意して、経過をメモし、合意事項について確認すること。相手の書く内容を信頼しないこと。

【車を売る】
価格が決まった時点で車の売却の話をする。まず、相手に査定させて、値段がCARMAXの価格より高ければそれで合意する。低い場合はCARMAXの査定証を見せればマッチアップしてくれる。してくれない場合は席を立つこと。そうすれば相手はあわてて査定を上げてくる。

【リースの場合】
ここまで話がまとまった時点で、リースの場合は、ファイナンス担当者との交渉に移る。ディーラー担当者やファイナンス担当者にCongratulationsなどと言われても、まだ買うか決めてないよとはっきり伝えること。向こうはこっちが買わなければならない気にさせるようにいろいろ仕向けてくる。
リース契約は、いろいろなことに気をつけなければならない。まず交渉の最初に、Close-end Leaseであることを確認する。これは2年後の価格は基本的に据え置くリース契約である。Open-end Leaseは2年後の価格がマーケットの状況によって変わる契約であり、避けるべき。ただし、ほとんどのディーラーは基本的にClose-end Leaseなので、これはあくまで確認のためである。また、Gap Insuranceがリース代に含まれているかも確認する。Gap Insuranceについては別サイトで調べていただきたいが、基本的には事故で全損したときや盗まれたときの保険である。
リースの場合に重要な数字は、Acquisition Fee、Cap Cost、Residual Value、Money Factor、Lease Term、Down Payment (頭金)、Minimum Mileageである。Acquisition Feeはリースをする際の手数料で交渉の余地はない。これはファイナンス会社に支払われる。自分の場合は$700であった(結構高い)。Cap Costはこれまでの商談で決めた購入価格。Residual Valueはリース終了後の車の推定価格である。これが高ければ高いほど支払い金額は低くなる。
ただし、Residual Valueもディーラーが決めるのではなく、ファイナンス会社によって決められているので交渉の余地はない。Residual Valueは一般に公開されていないが、こちらのサイト(http://www.cars.com/go/alg/index.jsp)で大体の値を知ることができる。私の場合はサイトで調べた価格が$13,475で実際は$15,481だったので想定していたよりかなり良い条件でリースをすることができた。また、Money Factorも同じサイトで調べることができる。Money Factorは金利のようなもので、2400をかけることで大体の金利に変換できる。Money Factorは自分のクレジットスコアによってファイナンス会社によって決められるので交渉の余地はないが、交渉の最中にわかるので値を聞くこと。Lease Termに関しては2年また3年にすること。それ以上の場合はローンのほうがお得といわれている。Down Paymentはいわゆる頭金であり、多ければ多いほど金利手数料は安くなる。ただし、車が盗まれたり修理不能な状態になった場合、既に支払ったお金は返ってこない(保険があるのでお金を支払う必要はないが。)ので、Down Paymentを低くしておいたほうが、その場合の損失が少なくて済む。自分はDown Paymentを最大限にしてしまったのでこの点は少し後悔。Minimum Mileageは年間の走行距離の限度であり、通常は15,000か12,000から選ぶ。12,000のほうが支払いは低くなるが、Minimum Mileageを超えた分の走行距離に関してペナルティがかかるので注意。
なお、こういった数字は事前に調べるなり自分であらかじめ決めておき、月の支払いがいくらくらいになるかをオンラインのシミュレータなどで見積もっておくこと。想定している金額より高くなってしまった場合は、家に帰って計画を練り直すこと。基本的に交渉の際にこちらから指定できる数字は、Lease term、Down PaymentおよびMinimum Mileageである。ファイナンス担当はこれらの数字を元に月々の支払額を提示してくる。内容に納得したら、必ず画面上で全ての数字が正しく入力されているか確認し、不明瞭な点があれば聞くこと。また、Cap Cost + Tax +Tag Fee + Document Processing Fee + Acquisition Fee - Residual Valueが、Down Payment + Monthly Payment × (Lease年数×12 - 1)と大体一致するかを自分で紙に書いて確認すること。もちろん金利およびGap Insuranceがあるので前者のほうが高くなるが自分で状況を整理するためにも紙に書くこと。
自分はGap Insuranceのことを忘れていて、なんで価格より支払額のほうがこんなに高いんだと文句を言い続け、最終的に席を立って帰ろうとしたら引き止められて$400さらにディスカウントしてくれた。向こうがそれはGap Insuranceだよとちゃんと説明してくれれば納得したのだが、向こうも単にシステムに数字を入れて自動で出てきた数字を伝えているだけなのでリース代がどうやって決まるのかを正確に把握していないようだ。面白いのは自分が部屋を出て行こうとしたらいろいろな人が集まってきて必死に説得され、最後はお偉いさんが出てきて、このお偉いさんに納得できない理由を説明したら$400のディスカウントをくれたこと。
最終的な契約の際は、わからない点をそのままにして契約して後で予想外のお金を取られていたりしていてもサインしてしまったら終わりなので慎重に。聞いても納得できない場合は、家で考えると言って席を立つこと。引き止められても無視。今回は、思ったより高くRAV4が売れたのと、Residual Valueが予想外に高かったことにより、$4800のDown Payment + 月々$35の支払いを2年間の契約で、かつ$1600のお釣りが来たので大満足の契約となった。
なお、リースの場合、自身が加入する自動車保険においてComprehensiveとCollision(車両保険)に加入する必要があり、その際のDeductionの額も指定される。これによって保険料が高くなったり低くなったりするので、あらかじめ調べておくと良い。大手の自動車保険会社ではオンラインで簡単にいくら変動するか調べることができる。


【まとめ】
1.事前の勉強および情報入手が非常に重要。
2.納得できないことがある場合は一回家に帰って調べる
3.価格が折り合わない場合は、席を立つ。そうすると相手は価格を下げてくる。あらかじめ調べた適正価格以上では絶対に買わない。
4.相手のペースにさせない。自分が商談をリードする。
5.交渉の経過を自分で紙にメモし、それをもとに相手との合意事項を確認すること。
6.強気にいくこと。ただし、頭は冷静に。
7.一人で行かない。必ず二人以上で。人数が多いほうが気持ちに余裕が生まれる。重要な決定の前には必ず相談する。

2014年6月25日水曜日

アメリカ理系大学院(PhD)への入学方法

筆者は2011年にアメリカの某大学のElectrical and Computer Engineeringの博士課程に入学した。具体的な出願プロセスや必要書類についてはいろいろと書籍もありウェブ上にもいろいろと情報があるのでここでは筆者が経験した中から重要だと思うポイントについて箇条書きしたい。質問があればコメント欄にお願いします。

【注意事項】
・筆者の主観で述べている部分が多々あります。
・自分がやりたい分野が決まっている人向けの情報です。
Computer SicenceおよびElectrical and Computer Engineeringの一部分野(ソフトウェア系)の固有の話が多いです。

【指導教授の選び方】
自分がやりたい分野が完全に決まっている場合のほうが楽だと思う。筆者の場合もそうだった。自分がやったことは、大学ランキング30位くらいまでの大学の中から自分の研究分野の教授をリストアップしてエクセルに入力。各教授の具体的な研究テーマもリストアップ。各教授の特徴、年を取っているかや学生数などを記入。ここらへんは教授のウェブサイトを見ることでわかる。また論文を読むのも重要。リストアップ後は様々な観点から絞込みをして自分の場合は10人くらいに絞った。その分、ひとりひとりへのエッセイやメールには時間をかけた。エッセイにはその教授とラボに入りたい旨と、どういった研究をしたいのかを具体的に書いた。その場合も受身口調ではなく、研究テーマの提案に近い形で書いた。そのためにはその教授の論文を読み込む必要があるので結構時間がかかる。あと、あまり最近論文を発表していない教授やあまりにも年を取っている教授はやめたほうがいいと思う。あとは学生数もチェックすべき。あまりに少ない場合は引退間近やお金がない教授の可能性がある。

【コンタクトの仕方】
まず、多くの教授がウェブサイト上で出願者に対して、メールを送るなと明記してあった。そうしないと彼らのメールは出願者からのアピールメールでいっぱいになってしまうのだろう。メールを送るなと書いてある場合は素直に送らないでおいたほうがいいかもしれない。その場合は通常の大学の出願手続きに従うが、エッセイの中でその教授の指導を受けたい旨を明記する。メールを送るなと書いていない教授の場合は遠慮なくメールすべき。その際のメールはもしかしたら出願時のエッセイよりも重要かもしれないので推敲に推敲を重ねるべき。できればネイティブチェックも受けたほうが良いと思う。自分が書いた内容は、挨拶→自己紹介→自分がやってきた研究について→その教授が興味を持ちそうな研究テーマを提案、自分のウェブサイトへのリンクおよびCV(下記参照)である。最後の部分は当然教授によって変える。自分は何通もメールを送って4人くらいから前向きな返事をもらい、最終的にそのうち2人からオファーをもらった。メールを送っていなければ受からなかったと思う。

【ウェブサイト】
必ず自分の研究者としてのウェブサイトを作成しておき、研究業績や履歴などを載せておく。そして教授へのメール時には必ずリンクを含める。コンピュータサイエンス系の学生がこうした個人サイトを持つことはもはや常識である。通常ラボのウェブサイトに学生のリストがあり、そこから学生個人のウェブサイトにいけるようになっているのでそれらを参考に作成すると良いと思う。

【CV】
日本語で言う履歴書である。LaTexで気に入ったデザインのCVのテンプレートを見つけ、学歴、職歴、スキル、研究業績などを書いていく。注意事項としてはCVは2ページにすること。入学後にインターンやフルタイムのポジションを探すときにもCVは必須なので、キャリアを通して、適宜アップデートしていくことになる。教授にメールする際はCVを添付する。

【学歴・推薦状・研究業績】
なんだかんだいってUniversity of TokyoやKyoto Universityはアメリカでも知られているので、そういった有名大学に在籍もしくは卒業していて、世界的に有名な教授から良い推薦状もらい、さらに既にいくつか研究業績があり、他の面で大きく失点しなければ(GPAやTOEFLの点があまりに低い)複数の学校からオファーをもらえる確率はかなり高いと思う。ただ、その場合もコンピュータサイエンスのトップスクール(MIT,CMU,Stanford,UC Berkeleyの4校)から合格をもらうのは簡単ではないと思う。なぜかというと中国・インドをはじめとする国々のトップ大学卒を優秀な成績で卒業した出願者の中から選んでもらうためにはさらにプラスアルファが必要だから。ここで一番ものを言うのはやはり研究業績である。それもただ単に論文を出しました、ではなくその分野のトップカンファレンス、トップジャーナルにファーストオーサーとして何本か出していれば最高である。はっきり言ってそれさえあれば有名大学卒じゃなくてもGPAが低くても、有名な先生から推薦状がもらえなくてもトップスクールに合格する可能性はかなり高いと思う。トップカンファレンスとはいかなくても少なくともそれなりのカンファレンスに数本出しているのもかなり効果がある。もちろん日本語の論文はいくら出していても全く考慮されないので、論文を書く機会がある場合はある程度知られた国際会議なりジャーナルを目標にしないと時間の無駄になる。研究業績が無い場合は、例えば数学オリンピックで金賞だったとか卒業生のうち成績が10位だったとかプログラミングコンテストで優勝したとかいう経験があればかなり良いだろう。個人的にはコンピュータサイエンスでの日本人の存在感があまりに低いのでもっと日本人が増えて欲しいなと思う。ただ上記4校以外にも良い教授はたくさんいるし、最終的には在学中の研究業績がものをいうので上記4校にそこまでこだわる必要もないかなと思う。(自分は上記4つのなかではCMUにしか出願していない。)

【外部奨学金】
一番合格の可能性が高くなるのはやはり外部の奨学金を得て留学することだろう。教授としては給料を払わずに人手が手に入るのだから足手まといにならなければこんなにありがたいことはない。ただし、奨学金によっては卒業後何年は日本で働かなくてはいけない決まりだったり、期限が短かったりする場合があるので注意が必要。また、ほとんどの留学生は外部奨学金なしで来ているので同じ土俵で勝負したい場合は奨学金に頼らないという選択もあり。

アメリカ理系大学院博士課程の様子

筆者は2011年の秋からアメリカの某大学のDepartment of Electrical and Computer Engineering (電気・コンピュータ工学?)のPhD(いわゆる博士)課程に在籍してます。研究分野はコンピュータービジョン・機械学習といったコンピューターサイエンスよりの分野です。アメリカの理系大学院の様子をいろいろな観点から述べます。 アメリカへの研究留学に興味がある方の参考に少しでもなればと思います。

【注意事項】
 ・内容は筆者の経験・感覚や友人から聞いた話に基づいています。
・筆者はアメリカのECEまたはCS(コンピューターサイエンス)の大学院の様子しか実体験を持っていませんのでそれ以外の学科や国の状況はわかりません。 

【人種構成】 正式な数字は知らないが自分の感覚では次のとおり。中国人50%、インド人20%、アメリカ人5%、韓国人5%、台湾人5%、その他いろんな国から。ちなみに日本人は筆者ひとりである。コンピューターサイエンスはアメリカ人がもう少し多いような気がするがだいたい一緒である。この前ラボのアメリカ人が「おれたちマイノリティーだよね」と自虐的に話していた。ちなみにCSには日本人は2人いる。他の学科では理学・工学も含めてここまで外国人比率が高いところは聞いたことがない。例えば数学科や航空宇宙工学科などはアメリカ人がかなり多く、インド人はほとんどいない。中国人はそこそこいるようだ。インド人から聞いた話によるとインドではECEとCSが一番人気らしい。理由はそれ以外の分野は工学も含めて産業が発達していないのでインドでの就職先が少ないそう。あとこれはインド人に限らない話だが、ECEおよびCSの卒業生の就職先がアメリカではたくさんあるのでアメリカに移住したい場合、ECEおよびCSが有利だと思う。これが純粋数学とかになると就職先はアカデミアに限られてくるので大変だろう。よく他の留学生に聞かれるのは、日本には良い大学があって産業が発達していて良い会社がたくさんあるのになんでおまえはアメリカに来たんだ?ということである。話をきくとどうもインドや中国は学部のレベルは高いが、大学院のレベル(つまり研究のレベル)がそんなに高くないらしく、研究するには良い環境ではないらしい。また、本国で優秀な学生はアメリカの大学院に留学するというのがメジャーなことになっていて学歴の最終到達地点のような感覚らしい。ここは日本と違うところで日本ではやはり優秀だろうがなかろうが学部→修士→日本で就職というのが大多数の理系学生の進路であって海外の大学でPhDを取ろうという人間はまだ少数派だろう。自分もいろいろな偶然が重なっていなければそもそもアメリカでPhDを取ろうという気にもならなかったと思う。しかし、国内に残って不自由なく暮らせるというのは実はとてもありがたいことなのかもしれない。 

【学生の様子】 学生はみんなとても優秀である。特に留学生は各国のトップクラスの大学で上位の成績を修めたようなひとばかりである。ラボのあるインド人はインド全体の大学入試のテストで100番くらいだったらしい。また友好的な人が多くまじめで礼儀正しい人が多い。当然といえば当然だが、国ごとに固まっている感は否めない。やはりインド人はインド人と一緒にルームシェアし遊びに行ったりし、中国人は中国人と、アメリカ人はアメリカ人と一緒にいる。自分はひとりなのでみんなと仲良くでき逆に幸運かもしれない。またいろいろな国の人と交流できるのが非常に楽しい。年齢は20代中ごろから来て30になる前に卒業する人が多い。ちなみに自分は30になってから来たので周りはほとんど年下。ただ、同い年くらいの学生もちらほらいるので疎外感はない。まあ20代後半ともなればみんな大人なので多少の年の差は気にならない。(少なくとも自分は気にしていない)また、自分も含めて既婚者もちらほらいる。傾向としては中国人はわりと学部卒業して直で来る人が多い。インド人は社会人経験がある人も結構いる。台湾人・韓国人は社会人経験がある人が結構いて、かつ兵役が2年くらいあるので年齢は高め。

【人数】 ECEの大学院生はおそらく全部で250人くらい。平均5年在籍するとして一学年50人くらい。ただし、ECE自体はとても大きな研究領域で物理的なことをやっている人もいればロボット的なことをやっている人もいれば情報理論などの数学的な分野をやっている人もいるので、各分野で一学年に15人くらいだろうか。筆者自身は正式には専攻はSignal Processingであるが研究内容はほぼコンピュータサイエンス(コンピュータービジョンおよびマシンラーニング)である。

【授業】 授業は日本の大学(自分の卒業した大学)とは比べものにならないほどハードである。まずスピードが速い。そして宿題が多い。さらにプロジェクトやらテストやらがたくさんある。自分は最初の学期によくわからないまま授業を3コース+セミナーを1つ取ってしまい、さらにTAもやっていたので本当に大変だった。この一学期だけで日本の大学での4年間より多く勉強したのは(恥ずかしながら)間違いない。ただ、2学期以降は授業は2コースまでと決めたので1学期目よりは楽になった。あとは慣れもあるだろう。あと、最初はコアコースと呼ばれるハードなコースを取らなければいけない決まりだったが、その後は、セミナー的な授業が増えたりプロジェクトベースの授業が増えたりでだんだん楽になった。成績はGPA3.0以上をキープしないと退学させられる。(猶予期間有り。)授業中生徒がよく質問をし、教授も常に質問がないか聞いてくるのが日本と大きく違うところである。授業時間は1コースで週二回75分の授業が基本である。過去問を集めるのが重要というのは日本と一緒である。(自分は後で気づいた。)授業の成績は主に、宿題、テスト、プロジェクトの点の合計で決まる。宿題10%、中間テスト30%、期末テスト40%、プロジェクト20%のように割合がはじめから公表されている。各学期ごとに自分がとったコースの評価、つまり教授の採点を行う。これは匿名で行われ、評価を入力したものだけが他のコースの評価などの最終結果を見ることができる。あまり適当な授業をやると生徒から悪い評価をつけられ自身の昇進や評価に影響する、という仕組みよって授業の質を保っているのだと思われる。 

【TA】 基本的にほとんどのPhD課程の学生がTAを最低1学期やる。自分は最初の1学期および4年目になってから自分の教授の授業のTA(正確にはTeaching Fellow)をやった。仕事は週一回、1時間のDiscussion Sessionと呼ばれる演習の授業を受け持つことと、日々の宿題およびプロジェクト・テストの採点である。基本的には学部生用の授業を受け持つが大学院生向けの授業を受け持つこともある。この場合、テストの採点だけは教授が行う決まりに一応なっている。TAは大変だが自分の勉強にもなるし、英語の練習にもなるので非常に役に立つと思う。また、TAとして大学から給料がもらえ、さらに学費免除になるので実はとてもありがたい仕事である。自分の研究室は外国人だらけなのでこのTAの時間を通して学部のアメリカ人と交流できるのもなかなか貴重な時間だった。ただ、アメリカ人の学部生は非常に自己主張が強いのでこちらもハッキリものを言ったほうが良いと思う。 

【RA】 TAをやらない学期はRAとして指導教授に研究員として雇われている形になる。給料は独身なら質素にすれば暮らしていけるレベルのものがもらえる。また学費も免除となる。仕事としては単に研究をし、論文を書くだけで、それによってPhDをもらうことになるのでこれまた本当にありがたい仕事である。ただし、研究資金に乏しい指導教授の場合、RAとして雇ってもらえずずっとTAをやり続けなければならない(自分の研究の時間が奪われる)場合や、研究室にいられなくなり他の指導教授を探さなければならなくなったり、最悪は大学を去らなければならなくなる。なのであらかじめ教授の金銭状態を把握しておくことも何気に重要だと思う。自分の指導教授は幸いなことに研究資金を豊富にもっているのでありがたいことに今のところはRAとして研究に集中できている。 

【PhD適格試験】 各授業の試験とは別に、PhD課程の学生として大学に残るための試験がある。大学・専攻によって内容は異なるが、自分の大学のECEの場合は、筆記試験、口答試験、プロポーザル、ディフェンスと呼ばれる4つの試験がある。このうちプロポーザルとディフェンスは基本的には自分の研究を教授の前で発表するだけであり、落ちたという人は今まで聞いたことがない。ちなみにプロポーザルは3年目から4年目頃にやる人が多く、ディフェンスは卒業直前にやる。筆記試験は1年目の間に受かる必要があり、2回までチャンスが与えられる。内容は、10個のECEの分野のうちから5つを選んで行う試験である。ほとんどの学生が合格する。一番の難関は口頭試験である。これは2年目のうちに受かる必要があり、筆記試験と同様2回までチャンスが与えられる。内容は、コアコースに指定されている授業を2つ選び、指定された教授3人による口頭による試験である。自分の場合は1時間半程度であった。回答は基本的に黒板を使って行う。この口答試験は実際に落ちた人を何人も知っている。なのでこの口答試験はかなりのプレッシャーであった。ちなみに自分の大学のCSは学科長の方針でプロポーザルとディフェンスのみらしい。 

【研究】 これはもう本当に教授による。教授によってはコアタイムがあったりするらしい。傾向としてはテニュアを持たない教授は自分も必死なので学生に細かく指示を出し一緒になって研究する。テニュアを持っている教授は割と放任である。自分の指導教授は完全に後者。どちらもメリット・デメリットがあるが、あまり教授が細かく指示してくる場合は自分で新しいアイデアを考えたりする機会が少ないのかなと思う。ただ、過去にその分野での研究経験がない場合は丁寧に指導してくれる教授のほうがいいかもしれない。後者の場合は既にその分野での研究経験があり、自分ひとりでもなんとかやっていける場合はいいかもしれない。その分、うまくいかなかった場合のリスクも自分で背負うことになる。また、仕事を指示してくれるひとがいないので研究が好きでないと自分でモチベーションを保つのが大変だろう。 

【ラボの様子】 学生は全部で20人くらいおり、みな別々の研究テーマを持っており、割と独自に研究をしている。ただこれは分野によるだろう。大掛かりな実験が伴うような分野では複数人が協力してひとつのテーマを研究するのが当たり前かもしれない。筆者の分野は紙とペンとコンピュータがあれば研究できる分野なのでひとりひとりが個別に研究テーマを持っている。なお、20人というのはかなりの大所帯である。人数が多いと教授がひとりに割ける時間が減るのがデメリットかもしれないが同じ分野の仲間が多いといろいろと議論ができたり気軽に聞けたりするのでその点はメリットであろう。

【インターン】
口頭試験をパスし、授業も全て取り終えた3年目以降から、特に卒業後はインダストリーに就職しようと考えている学生は、企業でのインターンを経験する人が多い。だいたいは夏の間の三カ月であるが、場合によっては1年間やったりもする。インターン先はGoogle、Microsoft Research、Facebook、AdobeなどのIT企業が多い。日系企業の研究所(NEC Lab America、MERL、Honda Research Institute、TTI)なども割と人気である。別の投稿で詳しく書いたが、だいたい一月で6000から11000ドルもらえる。また、インターンとして良い成果をだせばそこで卒業後にフルタイムとして雇ってもらえる可能性も高くなる。